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打ち込まれた銃弾と見えない銃弾、三浦瑠麗氏の発言の余波

李信恵2018.02.26

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2月23日午前4時前、東京・千代田区にある在日本朝鮮人総連合会の中央本部の前に2人組の男が車で乗りつけ、拳銃の弾を数発撃ち込んだ。警戒に当たっていた警視庁の機動隊員が建造物損壊の疑いで男2人を逮捕。被疑者の一人は、在特会などのヘイトデモに参加していた排外主義者でもあった。

ちょうどこの事件の起こった翌日の24日は、5年前に大阪・鶴橋の駅前で女子中学生が「朝鮮人虐殺」を叫んだ日だ。今でも、女子中学生が叫んだ
「もう殺してあげたい!皆さんも可哀想やし、私も憎いし、死んで欲しい!いつまでも調子に乗っとったら、南京大虐殺じゃなくて、鶴橋大虐殺を実行しますよ!」
と云う言葉が、記憶の中に残っている。ふとした拍子に、思い出して震える。今回の事件を知ってからもそうだ。あれから5年も経って、ヘイトスピーチ抑止法や各地で条例が出来たというのに、なぜこんな事件が起こってしまったのだろう。このような事件やヘイトスピーチが発生するたびに、自分の人生と云うか、培ってきたはずのこの社会への信頼が土台から崩れ去りそうになる。

ちなみに、発砲事件が発生した直後のネット上では「自作自演」と云う言葉が飛び交った。さらに、この事件を「義挙」と呼ぶものもいた。バカじゃないの。

これまでにも、ここ数年間でヘイトクライムはすでに発生している。2014年に神戸の朝鮮学校への侵入・襲撃事件、2015年には韓国文化院への放火事件などが発生している。ニュースにはならなかったが、大阪の朝鮮学校では2014年に校門の掲示板に張っていた生徒の作品が切り裂かれるなどの嫌がらせもあった。

2週間ほど前に、三浦瑠麗氏が「スリーパー・セル」などの発言をした。そのことについて私も問題視し、記事にした。「北朝鮮のスパイが日本に潜んでいることは事実だ、現に過去にこんな事件があった」などという人もいた。私が問題にしているのはそんなことじゃない。隣国の脅威を煽ることで、差別のハードルが低くなり、その結果、直接的な被害を受けるのは誰かと云うことだ。

今回発砲事件を起こしたうちの1人は、三浦氏が今回の発言をするずっと前から排外デモなどに参加している。だから、三浦氏と発砲事件とは直接関係ないという人もいるだろう。けれど、三浦氏の発言が作り出そうとしたものは、朝鮮民主主義人民共和国に関わる人たちや朝鮮半島にルーツを持つ人々に対して、偏見や差別へと向かわせる土台だ。北朝鮮に関係があるなら、その場所で発砲事件が起こっても仕方ないと思わせる空気にも加担したと思う。その空気は、安倍政権や戦後の日本政府が一環として形成して来たものでもあるけれど。

また、今回の発砲事件が起こった同日、衆院予算委員会第三分科会では、自民党の山田賢司議員が「北朝鮮国籍」と「朝鮮籍」を混同させ、朝鮮大学で物理工学を教えていることや、「朝鮮籍」を持っている在日朝鮮人を雇用することは、北朝鮮に対する国連決議に違反すると内容の質問を行った。「朝鮮総連は北朝鮮の出先機関で公然と活動している」との発言もあった。

これまたバカじゃないの、と思った。「朝鮮籍」とは戦後日本に在留していた朝鮮半島出身者およびその子孫の「出身地」を表す記号であり、「北朝鮮国籍」を表すものではない。法務省官房審議官もそのように答えているのに、山田議員は朝鮮籍=北朝鮮、朝鮮学校=北朝鮮だとみなし、巧妙に話をすり替えていた。

何度もあちこちでも書いているが、日本政府は戦後になってから、植民地支配していた朝鮮半島出身者から日本国籍を一方的に剥奪した。そのため、朝鮮半島出身者は「朝鮮籍」という記号を持った、無国籍状態になった。その後、朝鮮戦争が起こって南北が分断する過程で、「韓国籍」が出来た。

しかし、朝鮮民主主義人民共和国を支持するといった意味で「朝鮮籍」のままの人もいれば、朝鮮半島が統一するまではあえて「朝鮮籍」でいるという人もいる。親が「朝鮮籍」だったので自分も変えないという人も。その理由は様々だ。

山田議員の発言もまた、過去の歴史を直視していないものであり、無知だと思う。仮に、分かっていながらの発言ならさらに悪質だ。無自覚でも、意図的でも、差別扇動に変わりはないのだけれど。私たちは、そういうことをちゃんと見抜く知識と視点を持たなければいけないと思う。

そして、「差別」と云うものは「上からの差別」と「下からの差別」があるという話を聞いたことがある。「上からの差別」とは、社会の構造上の差別であり、国や行政などがお墨付きを与えているものだ。朝鮮学校無償化除外問題などは、これに当たると思う。また、「下からの差別」と云うのは、私たちが暮らす日常における差別のことであり、路上やネットのヘイトスピーチやヘイト街宣などをはじめ、マジョリティの感情からの差別など。

2月23日は、私たち在日にとっては、上下からの差別を目の当たりにした日だった。発砲事件も許せないし、山田議員の発言もまた、この社会のマイノリティの心に打ち込まれた銃弾のようなものだと思う。それらが壊そうとしているのは、この社会だ。この社会に暮らす誰もが、その標的になってはいけないし、まず私たちは、この2つの事件を許さないこと、この事件を生み出したものは何かを考え、知ることから始めなければ。

見えない銃弾は、「ヘイトスピーチ」と云う形で、もうこの社会に何度も撃ち込まれているんだから。

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李信恵(り・しね)

1971年生まれ。大阪府東大阪市出身の在日2.5世。フリーライター。
「2014年やよりジャーナリスト賞」受賞。
2015年1月、影書房から初の著作「#鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル」発刊。 

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