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春の鳥

中沢あき2016.04.20

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 数年前に東京の友人が我が家に泊まった時のこと。朝起きてきて窓を開けると、しみじみと言うのだ。生活のクオリティが高いよね。  我が家は節約家計を徹底している家庭なので、そんな贅沢な暮らしがどこに見えるんだろう?ときょとんとしたら、そういうことではないらしい。いや、この鳥の鳴き声とかさ、街中でこんなに聞こえるなんて、やっぱり豊かだよ。普段は皮肉たっぷりの哲学論や社会論を展開する毒舌学者の彼のイメージには意外な発言で、可愛いとこあるんだなと密かに微笑ましく思いながら、改めて外の音に耳を澄ませてみた。ナルホド。
 私自身、東京のど真ん中で育ったので、子供の頃の記憶にある鳥の鳴き声と言えば、早朝の爽やかなスズメに、昼間の気怠げな鳩、切ない夕暮れのカラスの鳴き声、ってところか。山だかどこかで、ホトトギスってほんとにホーホケキョって鳴くんだなという妙に感心したことはあるが、せいぜいそんな程度だ。だから、鳥が高らかに鳴く、とか、鳥の声で目が覚める、なんていう物語でしか知らなかったことは、ドイツに来てから体験し、今や日常の一コマだ。それも都会の住宅街で。
 この季節、朝の日の出もぐんと早くなる頃、窓越しに響き渡ってくる鳥の声で目が覚める。スズメではなくてもっと空に伸びていく声。ドイツ語でAmsel(アムゼル)というその鳥はクロウタドリのこと。英語ではブラックバード、ビートルズの曲名にもなった鳥だ。調べてみると、日本では旅鳥として、特に沖縄辺りで見られるらしい。スズメよりもう一、二回り大きいこの黒い鳥、その名の通り、色んなパターンで歌うように、お喋りをしているように仲間たちと掛け合って鳴くのだが、それが本当に可愛らしくて素敵な声なのだ。春眠暁を覚えず、の時期だけど、この声を聞くと実に爽やかな気持ちで目が覚める。旅鳥なので、春から夏にかけてこの辺りにやってくるのだが、毎年我が家の屋根の上のアンテナに止まって歌い続けてくれる子がいて(といっても毎年同じ子とはわからないが…)、ベランダで涼んでいるときに聞こえるその鳴き声に遊びに来た友人たちも、かわいい〜、とメロメロになる。
 反対側の部屋の窓の先に立つ街路樹の枝には、今年、カササギが巣を作った。カササギはあちこちに巣を作ってからどこが一番適しているかを選ぶらしいので、巣だけ作って空っぽのときもあるそうだが、親鳥が巣の中に何度も出入りしている様子を見ると、どうやらちゃんと中に雛がいるらしい。ちなみに我が家は日本で言う5階の位置で、それと同じ高さのところに巣がある、というわけだ。カササギの鳴き声はよく昔話の中で不吉な象徴として登場するように、ケケケーッととんでもなくヒステリックな叫び声なので、ドイツでは嫌われることも多い鳥だが、見た目は青と白と黒のコンビが美しい鳥だ。ドイツに来た頃は、クロウタドリの声をこのカササギのものと思い込んでいた私。やっぱり外見で判断しちゃいけませんよね。
 こんなにも鳥が多いのは、やはり樹木が多いせいだろう。住宅街とはいえ、街路樹の大木から庭先の中低木、そして少し歩けば街のあちこちに公園やら森林やら、我が家の散歩道である墓地も森のように木が生い茂っているから、鳥が住むにはぴったりの環境なわけだ。散歩に出かけて公園や森の中に足を踏み入れば、それはもう色んな種類の鳥の鳴き声が混声合唱となって聞こえてきて、思わず頬が緩む。と、カカカカカッと木を鳴らす音。キツツキ(というかたぶんアカゲラ)の音もドイツに来て初めて聞いた。何度も言うが、ここは大都市の住宅街、森のすぐ脇は車がバンバン走る大通りである。そのコントラストに、大都市でも森や自然を作ることは出来るんだなと思う。
 そんな自然の環境保全に関心高いこの国だが、自然は思わぬ形になっていくこともある。いつもの散歩ルートの鳥の混声合唱の中、ときどきちょっと変わった鳴き声が聞こえてくる。むむ、これは、と思って目を凝らすと、頭上の枝にいるのは、セキセイインコのグループ。それも家庭で買う小型のタイプじゃなくて、もう少し大きいオウムに近いくらいの大きさの彼等、元は南国出身でドイツみたいな北国生まれじゃない。かといって旅鳥でもない。彼等は、この街に生息しているらしいのである。聞けば、何年か前に動物園から逃げ出したインコが公園などに住み着いて繁殖したとのこと。オウムやインコの類はサバイバル能力が高いらしく、割とどんな環境でも適応して生きていくらしい。何が凄いって、他の鳥はドイツの寒い冬を避けてやってくるのに、南国出身の彼等は冬もここに留まっているようで、零下の雪と氷の寒さの中、我が家の軒先の枝にすまして止まっている彼等の姿はえらくシュールだった…。
 変わっていくのは鳥の鳴き声も同じで、以前読んだとある記事曰く、最近の野鳥の鳴き方は以前と違ってきているんだそうだ。例えばホトトギス、ホーホケキョと最後まで鳴かずに、ホーホケ、だけで止まってしまう鳥もいるとか。そもそも春先の鳥の鳴き声はオスからメスへの求愛なのだそうだが、今は昔と違って天敵が減ってきたせいで生存競争が穏やかになってきた結果、求愛の鳴き声も短くなってしまってきているということだ。うーん、恋愛の草食化が進んでいるのは人間の社会だけではないのか…。でもクロウタドリが鳴かなくなったら寂しいし、ホトトギスにはちゃんと最後のキョ、まで鳴いてほしい。人間の勝手かしら?
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© Aki Nakazawa
これがそのインコのカップル。気温もマイナス十数度で池も凍り付くような寒さだったのに、グレーの景色の中にあのカラフルな姿を見たときは仰天しました。
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© Aki Nakazawa
クロウタドリの名前通り、黒い羽に黄色い嘴の彼等。ネットで検索してその歌声をぜひ聞いてみて下さい。
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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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