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セックスで選ばれた私。

アンティル2014.04.25

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それは雨の日の土曜日だった。Sは、ケチャップでも買うように彼氏と別れるためにうちを出て行った。セックスの余韻が残るベッドの上で、私は2つの衝撃を受けていた。それは彼氏がいたという衝撃。そして、“男”と私を比べて“オンナのカラダ”を持つ私を選んだという衝撃だった。
Sと出会ってからというもの、セックスでしか対話をしていなかったSが私を選んだ?!ということは、私の人格でなく男ではなく私とのセックスを選んだ?!外見も、セックスも男より劣っていると言われ続けた私がだ。
これまでの悲しいTとのセックスの思い出が初めて報われたように思えた瞬間だった。
私とSとのセックス(初期)は、“脱がないセックス”だった。私は胸を潰すベルトを付け、パンツは脱がず、触れることなくSのカラダに集中した。しかし濡れていることを悟られまい、“オンナ”だと思われないセックスをしなければという緊張感に包まれたTとのセックスとは少し違っていた。私は理性を失いかけていた。経験はないが、人間に保護されていた野生の動物が、連れてこられたバスから恐る恐る歩き出し、アマゾンを見て無限の空に走り出す時の気持ちと似ていた。しかしそこには天敵が待ち構えていたのだ。そして天敵は戦わずして去っていった。
Sが戻ってきたのは3時間後。Sは「別れて来たよ。」と言って私に抱きついた。Sは3年もつきあっていたという。後から見せられた写真のその男は結構イケメンだった。私は選ばれた喜びをセックスで表現した。
Sとの付き合いで私は“普通のカップル”の楽しみを知った。つき合っていることを堂々と話せる友達もいた、一緒にいていちゃついても変に思われることもない場所もあった。それは2丁目の中にあった。恋愛の相談をすることだってできる。セックスの話だってできる。自分が“特別”だという疎外感が私から少しずつ消え、街の中にいても私と社会を隔てる線ははっきりしたものでなく、ぼんやりとした線をうねうねと歩いている感じになった。
しかしそんなに世間は甘くない。ある日、私はSから幼なじみ6人を紹介された。私がオンナだということは話していると言う。Sの地元で待つオンナ6人、私が現れると一人をのぞいて私を見ようとしない。さっきまで大きな声を出していたその個室には空調の音だけが響いていた。Sはそれに気がつかないふりをして、私にせっせと幼なじみを紹介していった。会話が続かない。誰も私と話さない。私はSの顔を見た。Tならこの後、大変な修羅場になるからだ。しかし、Sは笑っていた。「しょうがないね」と言いながら、唯一人、私に気を使おうとした友達に手招きして、その友達に耳打ちした。
S「今度Wデートしようね」
友「うん!」
私の世界は少しずつ広がっていった。
【最近の私】
前にコラムにも書いた「肉好きですか?」の一言をまだ引きずっております。LPCのコラム陣との食事会の時に初めて会った方から、「どこに住んでいるんですか?」「どんな本が好きですか?」「最近のロシア状況をどう思いますか?」というような会話の場面で、言われたこの一言。なぜ引きずっているかというと、先日お肉に強いお店に友人6人と行った時、テーブルごとにお肉の塊を持ってやってくるお肉切りの男どもがいました。お肉のいろんな部位を持ってきては、「○○肉はいかがですか?」と目の前で注文を取り、切っていくシステムなんですが、「○○肉はいかがですか?」→全員首を振るっても、私の皿には肉が切られていたのです。しかも1回や2回ではありません。なぜなんでしょう?!お肉=私?私=お肉?私は、いったいなんなのでしょうか?

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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