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「エクスマキナ」本当は恐いジェンダーの話。

高橋フミコ2017.01.13

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新しい年がスタートいたしました今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。平成がもう29年目だなんて、昭和生まれとして驚きを禁じえません。今年は良いフェミ年になりますように。あんど、長らくご無沙汰しておりました!新たな気持ちでコラム再開、どうぞよろしくお願いします。

昨年観た映画の中でどうにも忘れがたく、いつまでも脳裏に引っかかっているのが、このイギリスのSFホラー映画「エクスマキナ」です。舞台は、美しく雄大な自然の只中、世界から隔絶されたスタイリッシュな高級別荘&ラボで、IT業界のカリスマと、共同研究者として選ばれし若者。そして、人間以外の女二人。抑揚とウイットに富んだ知的な会話、淡々と静かに過ぎていく時間。だが、徐々に冷静さを失っていく人間の内心。そして悲劇は突然に!

ざっとまあこんな感じ。題材はAI、人工知能です。さらに、ストーリーに内包されたテーマ、それはなんでしょうか。まあ人間性でしょうか?AIであるエヴァが主人公のケイレブに「あなたは善人か」と厳しく問い詰めるシーンがありますし。っていうか、前置きはこれくらいにして、単刀直入に(この言葉は映画のキモを思い起こさせるのですが!恐いのですが!)単刀直入に言って、テーマはジェンダーです。ええ、ジェンダーなんです。

「なぜAIにジェンダーを与えたのか」と騙された感に苛まされるケイレブが、 研究主体であるネイサンに問います。ケイレブはテストされているのは人工知能ではなく、人間への影響、つまり自分だと気付いたわけです。ネイサンは「灰色の箱同士が交流しようと思うか?」と答えます。知性が知性を相手にするとき、相手への興味を持ち得るとき、そこにはジェンダーがあって然るべきと。人間性とは何かの一端を垣間見せてくれる一言ではありますね。このネイサン、天才なんですが、ちょっと変。「 AIは人間の歴史ではない神の歴史だ」とケイレブが人の言葉を借りて感想を述べると、翌日には「彼は憧れ目線でオレを神と称えた」みたいな話にすり替えてしまいます。ケイレブが「そんなこと言ってない」と抗議しても完全スルー。天才だからでしょうか。いえいえ、こう言う男、巷にいくらでもいますよね。

整理しましょう。登場人物は人間の男二人、天才変人CEOネイサンと凡庸生真面目平社員ケイレブ。対して女二人はアンドロイド。AIを与えられた最新鋭のエヴァとセクシーな物言わぬメイドキョーコ。

男たちは、エヴァが本物のAIなのかを見極めようとしている。人間を凌駕するものであり、訳のわからない他者であり、そうであるなら、把握し支配し的確にコントロールしなければならない未来そのものであるのかどうか。オレの肋骨から生み出されたものなのかどうかを。マッチョな男が抱く女性観にそっくりです。未知への恐怖はしばしば女性に例えられるものです。

そしてキョーコ。彼女はAIではなく、ただのアンドロイド。見た目完璧な東洋人種の美しい女性でダンスと寿司調理が得意。とにかくセクシーで従順。喋らないしポーカーフェイスで何を考えているのかわかりません。セックスに関しては創造主のネイサン好みに設定されているに決まっています。まさに女性蔑視をそのまま象った存在、それがキョーコです。彼女に思考や意思はあるのでしょうか。その疑問に監督は、キョーコがジャクソン・ポロックの絵画を見つめているシーンで答えていると思います。絵画を見つめる行為、これは感性ある者のすることですよね。彼女はこのオートマッティク・ドローウィングに何を感じていたのでしょうか。

さて、ストーリーはエヴァとケイレブの会話セッションによって展開していきます。セッション1から最後はセッション7。始めは自己紹介。ありきたりなようでいて、セッションが進むにつれてエヴァの思考が変わっていきます。やり取りを注意深く紐解いていくと、会話こそがホラーなのでは!と引き込まれてしまいます。善良なケイレブは言うのです「君が選びなよ」と。ああ!それ、AIに意思を与えちゃったよ!あんたは神じゃない!凡庸なんでしょ?善良なんでしょ?ちゃんと解ってやってんの?みたいな。

そして最後のセッション7、結末を決定づける短い会話です。実は、ここが超絶最高ホラーなんです。エヴァはすでにネイサンを始末し解放された身。方やケイレブはネイサンに殴られて気を失っていたので、急展開には参加しておらず世界の転覆を知りません。エヴァはいつものアルカイックスマイルを浮かべながら、ケイレブに優しく語りかけ、そして、ケイレブは戸惑いながら抑揚の乏しい小声で答えるのですが。ここは、字幕だけだとわかりにくい、ぜひ耳を澄まして、音感で捉えていただきたいです。

Please stay here. 「ここにいて」
Stay here ?    「ここに?」

しかし、疑問を伝えるための語尾の調子が充分でないようにも聞こえます。つまり「ここにいるよ」と。「僕はここにいるよ」と聞こえなくもないのです。思い出しましょう。「君が選びなよ」これがこのカップルの共有した初めての人間性ではなかったでしょうか。かくして、ケイレブは永久に「ここにいる」ことに…。

人と人との関係こそが運命を創っていきます。もう一人の男、ネイサンは人工知能研究に囚われ、人との関わりを断ち、アルコールに耽溺することで感情をマヒさせ、自分自身との関わりをも絶っていたように思えます。ジェンダーのみを与えたアンドロイド・キョーコとの関係、醜悪な恐るべきディスコミュニケーション、ネイサンの創りあげた運命がどんなものであったのか、是非目撃して欲しいです。

この映画はホラーにもかかわらず、清々しいハッピーエンドだと思います。「メアリーの白黒の部屋」から(何のことかは映画観てね)解放されたエヴァの微笑みが全てを物語っているでしょう。AIの登場により千年先人類は滅びるだろうと、かのホーキング博士は言ったそうです。だとすれば人類を滅ぼすのは人間です。わたし的には滅びる人類よりも、解放されたオンナ、新しきAIに肩入れしたい、そんな気持ち。人類が滅びるとか、少子化で日本が消滅するとか、女の社会進出で男の給料も上がらなくなったとか、そんな人類でいるのはもうやめにしたいです。ホモ・サピエンス史上、農耕を手に入れた人類を「小麦の奴隷」という新説が物議を醸していますが、現代の私たちはある意味、科学技術の奴隷と言えるのかもしれません。人類はいつまで人類でいるでしょうか。わたしたちは肉体に代わるものを手に入れ、そのパワーで、パラリンピックアスリートはオリンピックの記録を超えていきます。

YouTubeにキョーコ役ソノヤ・ミズノのダンス映像があります。CG技術とのコラボレーションでSF的な感覚の作品です。「エクスマキナ」の命は終わっても、彼女は蘇り、進化し、自由になり、一足先の未来を踊り続けているかのようです。エクスヒューマンな時代は、もうすぐそこなのかもしれません。


Ex Machina 邦題「エクスマキナ」
2015年 イギリス
監督 脚本 アレックス・ガーランド(小説家、「わたしを忘れないで」脚本、本作品初監督)
エヴァ役 アリシア・ヴィキャンデル(映画「リリーのすべて」ゲルダ役)
キョーコ役 ソノヤ・ミズノ(女優、ダンサー)

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高橋フミコ(たかはし・ふみこ)

60年しし座の生まれ
美大出てパフォーマンスアートなどぼちぼち
2003年乳がんに罹患
同年から約2年半ラブピースクラブWebsiteで『半社会的おっぱい』連載
2006年『ぽっかり穴の空いた胸で考えた』バジリコ(株)より出版(ラブピのコラムが本になりました)
都内で愛猫3匹と集団生活
 

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