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わたしたちは災害スペクタクルを楽しむ事ができるのか、 火砕流に埋もれた街ーPOMPEII―

高橋フミコ2014.06.15

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 とある映画館コンプレックス、本来ならば、ポップコーンやドリンクの紙カップ片手にウロウロ席を捜す人や、準備万端着席し早くも彼氏の肩にもたれかかる猛禽ちゃんや、暇つぶしに薄暗がりで持参の書物に目を通す勤勉さんやらで賑わうはずの客席が、どういうわけかガラガラでした。スペクタクル・ラブロマンス、特撮3D、巨費を投じたハリウッド超大作の、ロードショウ4日目にもかかわらず、このタイプの映画にとって明らかに少な過ぎる観客です。
 ある人は断言します「この映画、日本では流行らない」。事実そうなりそうです。それは、紀元2011年東北大震災を目の当たりにし、なおかつ近い将来訪れるであろう東海東南海地震、富士山噴火、死の灰の到来を、動かし難い事実として内面化し日々暮らすわたしたちにとって、この映画は身に詰まされる恐怖のフィクションだから、予言の書だから、ただの脳天気な娯楽と成り得るはずもないから、なのでしょうか。咄嗟に、川内原発と桜島、姶良カルデラの位置関係が脳裏に浮かびます。それでもお勧めしたいと思うのは、無敵のグラディエーター、主演のキット・ハリントンが、ブラピ以来のエロティックスターと言って過言ではない仕上がりを見せているから、というだけではありません。
 時は紀元79年、ざっくり申せば今から約2000年前、
南イタリアはナポリ近郊、ローマ帝国の殖民都市であるポンペイは、200年以上平穏無事のヴェスヴィオ火山の麓、葡萄畑に囲まれた風光明媚な海辺のリゾート地、自由で華やかな商業都市として栄えていました。10年前の大きな地震でダメージを受け、建造物の再建が進められておりました。市の有力者セヴェルスは、投資を得ようとローマ元老院議員を招き、お勧め投資物件である新闘技場の模型を披露、お・も・て・な・しにも余念ありません。なんだか、災害復興のどさくさに、オリンピック招致までしてしまおうという我が国を彷彿とさせるじゃありませんか。そう考えると、ローマ元老院議員は差し詰めG7のどこかの、政治上手な産業大臣といったところでしょうか。方や、聡明で有能な妻の助言も空しく、セヴェルスはちょっと外交オンチです(どこかの誰かに益々似ている)、結局脅され、「ローマ人にしてやろう」などと甘言に丸め込まれ、愛する娘もポンペイの街も元老院議員の思う壷になってしまうのでした。競技場での余興にはオウム心理教が街宣活動で被っていたようなハリボテ仮面が登場するなど、なんだか本当に他人事とは思えない。
 描かれるのはポンペイ最後の一日です。すでに7日前に大きな地震があり余震が続き、ヴェスヴィオ山は噴煙を上げ、多くの市民が避難し始めていたのですが、財産や仕事を放り出しては行けない金持ちやその奴隷、商売人等もまた多く、街は相変わらず、通常の賑わいを保っていたといいます。実際、水道設備の機能は失われ、生活の困難は始まっていたのに、映画と同じに、人々は、当日も競技場での出し物に興じていたというから驚きです。いいえ、驚くことはないのかもしれません。今わたしたちはこうやって、胸に予感を秘めながらも、常に変わらぬ日々を送っているのですからね。
 ラブロマンスの方はどうなったのか、細かいことは申しません。王道とだけ言っておきましょう。『ロミオとジュリエット』であり、『タイタニック』であり、『グラディエーター』であると。ただ、最近、ハリウッド映画の女性観は大きく変わったのではないでしょうか。『アナ雪』でそれははっきり宣言されたのですが、この『ポンペイ』でも、女性主人公の、物事を見通し決断し自ら進む力、軽やかな力が物語をぐいぐい前に運んでいきます。もうヒーローに守られるだけの存在では集客を見込めない、不自然さが際立ち、物語が成り立たない、ということなのではないでしょうか。男性主人公はと言えば、これまたただのヒーローではありません。さっきからそればかりで恐縮ですが、とにかくエロい。奴隷だから服装が粗末で筋肉丸出し、文句無しにエロい。奴隷もの映画万歳!です。撮影中は厳しいダイエットと武術訓練で体作りに励んだといいます。さて、そんな二人は最後の恐怖の瞬間をどうやって乗り越えていくのでしょうか。
 この映画のキモは何と言っても、台詞が簡潔で意味深く素晴らしいことだと思います(但し、邦語訳字幕はフェミ的に難あり。ご注意!)。先の見えない刻一刻と変化する状況の中、それぞれの生き方が打ち砕かれては再生し跳躍していく。主人公たちは決して饒舌ではありません。けれど、ガンバロウとか、キズナとか、アンゼンアンシンとか、フウヒョウヒガイとかそんな空疎なことは言いません。台詞の一言一言がちゃんとその人物の生き様を語っている。もちろん完結した物語の中で、何度も練られた台詞だからこそ素晴らしいのですけれど。
 さて、あっと言う間に駆け抜けた映画時間に比べ、ゆったりと過ぎて行くかに思える現実の中、わたしたちにはどれほどの思慮があるというのでしょうか、今、どれほどの言葉を持ち得ているというのでしょうか。3Dメガネを外し戸外に出ると、逆に、自分の身体が映画の中に迷い込んだような錯覚に襲われ、思わずビルの谷間に幻の火砕流や津波を確認してしまいした。どうやら、約2時間の訓練で、脳内3D技術を身に付けたようでした。
2014年アメリカ/カナダ/ドイツ合作
監督/製作:ポール・W・S・アンダーソン
カッシア:エミリー・ブラウニング
マイロ:キット・ハリントン
アティカス:アドウェール・アキノエ・アグバエ

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高橋フミコ(たかはし・ふみこ)

60年しし座の生まれ
美大出てパフォーマンスアートなどぼちぼち
2003年乳がんに罹患
同年から約2年半ラブピースクラブWebsiteで『半社会的おっぱい』連載
2006年『ぽっかり穴の空いた胸で考えた』バジリコ(株)より出版(ラブピのコラムが本になりました)
都内で愛猫3匹と集団生活
 

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